道又蒼彩は、社会構造の中で個人が直面する位置と選択を主題に、木版画による制作を続けている。社会運動家・作家の生田武志氏が提唱した「カフカの階段」の概念(階段を下りることは容易だが、上ることは困難である)を参照しながら、上ること、下りること、とどまることの困難、そして選択した先での安堵と不安を描いてきた。

版を重ねながら掘り進める制作過程において版木は変化し、完成後に同じイメージを刷ることはできない。この不可逆性は主題と呼応している。作品に描かれる人物たちは劇的な物語を語らず、穏やかな視覚言語の中で、見る人それぞれの物語を紡ぐ余白を開いている。

アーティスト・ステートメント

社会構造は私たちに位置を与え、選択を迫る。上を目指すこと、とどまること、あるいは別の道へ進むこと。その選択の重さと、選択した先に何があるのかを見つめることが、道又蒼彩の制作の核にある。

「カフカの階段」は、社会運動家・作家の生田武志氏が提唱した概念である。階段を一段一段下りていくこと(失業し、住所を失い、路上生活に至ること)は容易だが、そこから元の生活に戻ろうとする階段は、壁のように高くそびえ立つ。道又はこの概念を参照しながら、絵本のような穏やかな画面の中に、階段を上ること、下りること、そしてとどまることの困難を描いてきた。

しかし問いは「上れない階段」だけにとどまらない。上れという社会的圧力から離れ、どこかに属することで得られる安堵がある。その安堵は確かに必要なものだが、同時にそこにとどまり続けることへの不安と表裏一体でもある。分岐点に立つこと、選択すること、そして選択した先での帰属と停滞。アーティストの関心はこうした問いへと展開してきた。

制作において、道又は版を重ねながら掘り進めていく。版木は刷りを重ねるごとに変化し、エディション番号は与えられているものの、完成後に同じイメージを刷ることはできない。一度進んだら戻れない。この不可逆性は、階段を下りること、選択すること、という主題と無関係ではない。

作品に描かれる人物たちは、劇的な物語を語らない。穏やかな視覚言語の中で、彼らはただそこにいる。その静けさが、見る人それぞれの物語を紡ぐ余白となることを、道又は意図している。

経歴

道又蒼彩(2000年北海道生まれ)は、木版画を通じて社会構造の中での位置と選択を問い続けている。版を重ねながら掘り進める制作過程において版木は変化し、エディション番号が付与されながらも、完成後に同じイメージを刷ることはできない。複製技術でありながら不可逆的に生成される作品は、一人一人の経験が異なるように、それぞれが固有の存在として立ち現れる。

2025年武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻版画コース修了。主な個展に「relief」(札幌芸術の森美術館、2025年)、「community of」(aaploit、2025年)。作品はアーツ前橋に収蔵されている。

CV

学歴

2023

武蔵野美術大学 造形学部 油絵学科 版画専攻 卒業

2025

武蔵野美術大学大学院 造形研究科 修士課程 美術専攻版画コース 修了

個展

2025

『relief』, 札幌芸術の森美術館, 北海道

『community of』, aaploit, 東京

2024

『SPRING』, aaploit, 東京

2023

『道又蒼彩展』, anonymous art project, 東京

『own pace』, aaploit, 東京

グループ展(抜粋)

2025

『新収蔵作品展/コレクション+ 女性アーティスト、それぞれの世界』, アーツ前橋, 群馬

2024

『The Joy of Being With』, Gallery COLORBEAT, ソウル, 韓国

『Emerging Echoes: Presenting Realism』, Gallery COLORBEAT, ソウル, 韓国

『第48回全国大学版画展』, 上田市立美術館, 長野

アートフェア

2025

INAS 2025 – Incheon Art Show, 仁川, 韓国(aaploit)

アートフェア東京2025, 東京(aaploit)

2024

AFAF – Art Fair Asia Fukuoka, 福岡(aaploit)

ワークショップ

2025

版画ワークショップ, アーツ前橋, 群馬

2023

まわしてびっくり!? 回転版画に挑戦!, 斎藤清美術館, 福島

受賞

2023

第3回 anonymous collection 優秀賞

コレクション

アーツ前橋

メディア掲載(抜粋)

2025

『アートコレクターズ』No.191 2025年2月号:対談 道又蒼彩×秋元雄史

2023

『現代思想』2024年1月臨時増刊号 総特集=カフカ:生田武志氏の論考内で作品紹介

『福祉のひろば』2023年12月号, 2024年1月号:生田武志氏のコラム内で作品紹介